昼間から酒を飲み、釣れぬ釣り堀の番をしながら、日々を遊び暮らす―仙台伊達藩の裏隠密という血なまぐさい過去を捨て、新しい人生を手に入れた矢車真之介。殺しや策謀、裏切り…殺伐とした世界から足を洗ったつもりであったが、やくざの友七や岡っ引き助蔵の手によって、様々な難事件に巻き込まれてしまう。天保四年、夏の江戸。矢場・火的屋に顔を出した真之介は、男女がいい争う場面に遭遇する。仲裁しようとした真之介の胸に、いきなり飛び込んできた女―捨てたはずの過去を知る、真之介の古い馴染みであった…。嫉妬の炎に身を焦がす火的屋の女将・お紺を巻き込み、男女の恋情が思いもらよぬ大事件を呼び込んだ。