エレベーターのドアが開くと同時に、グレースは中に飛び込んだ。エレベーターが動きだしてもまだ動悸がおさまらない。乗り合わせた男性は怪訝そうに見るけれど、彼女は毛皮のコートの襟を立て身を硬くして立っていた。コートの下は素肌だなんて誰にも知られたくない。突然エレベーターが揺れて止まった。故障らしい。どんどん気温が上がり、暑くてたまらない。「何をしているんだ。早く脱がないと倒れてしまうぞ!」その声とともに男性の手が毛皮のコートをはぎとってしまった。思い出すだけで顔から火が出そうだ。早く忘れてしまいたい。あの男性とは二度と出会いたくないと思っていたのに…。