鬱症を病む菊之介に足軽の身分を返上させ、算術師範の道を拓くなど、内助の誉れ高いおゆうであったが、石女ゆえの哀しみを抱いていた。そのおゆうにやがて痴呆の兆しが見えると、菊之介は職を辞し妻の世話に専念しようと決意する。自分を“親切なおじさん”と呼び「あなたがわたしの夫なら、ふたりの出会いから今日までのこと、をお話しできる?」と問われた菊之介は、少しでも病の回復になるならと、日がな一日、ふたりの思い出を語りつづけるのであった。信州の小藩を舞台に、夫婦の至純な愛を清新な筆致で描いた、書き下ろし長編時代小説。