江戸時代草創期は、“戦国武士”がリストラされ、平時の武士へと姿を変えていく時代の幕開けでもあった。戦国武士の生き残りの大久保彦左衛門は、頑固なまでに武士の意地を貫き通した。彼の型破りな言動と生きざまは、やがて史実を離れて、講談界のヒーロー“天下の御意見番”を誕生させることになる。本書は、彦左の虚像と実像を、その著作『三河物語』にまでさかのぼり検証する。読者はそのなかで、新たな彦左衛門の姿を発見することになる。四百年にわたって庶民に愛されてきたヒーローは現代のリストラ世代に、深い共感を呼び起こす人物でもあったのである。