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「善人なほもつて往生を遂ぐ。いはんや、悪人をや」日本思想史において、もっも著明な言説ともいえる親鸞の言葉である。でも、なぜ「善人」ではなく「悪人」なのか。親鸞の弟子唯円によって記された『歎異抄』の中のこの一節を、筆者は、おのれの存在論的悪に目覚めた人間が「悪人」なのだ、ととらえる。他者を排除し犠牲にすることによってしか生きられない自分が「いま」「ここ」に在ることの申し訳なさを自覚すること。この澄み切った「悪の思想」こそ、八〇〇年の時空を超えて、現代によみがえる親鸞の思想の現代的意義なのだ。